運輸・物流業界のストレスチェック活用事例|ドライバー・倉庫作業員への実施と安全対策
運輸・物流業界は脳・心臓疾患の労災支給決定件数が全業種最多。ドライバー・倉庫作業員へのストレスチェック活用事例を紹介し、長時間運転、2024年問題、外国人労働者対応など業界特有の課題への対策を解説します。

結論(2行で分かる) 運輸・物流業界は脳・心臓疾患による労災支給決定件数が全業種で最多(88件/年)であり、メンタルヘルス対策と安全対策を一体的に推進することが不可欠。長時間運転、孤独な作業環境、深夜勤務、2024年問題への対応など、業界特有のストレス要因を踏まえたストレスチェック活用が求められる。
この記事の対象読者
- 運輸・物流会社の人事・総務担当者
- トラック運送、倉庫業の安全衛生管理者
- ドライバーのメンタルヘルス対策に取り組む経営者・管理職
ポイント(4つの重要事項)
- 労災リスク: 運輸業・郵便業は脳・心臓疾患の労災支給決定件数が全業種で最多(令和6年度:88件)
- 特有のストレス要因: 長時間運転、荷待ち・荷役作業、孤独な作業環境、深夜・早朝勤務
- 2024年問題: 時間外労働上限規制(年960時間)への対応が急務
- 安全と健康の連動: メンタルヘルス不調は事故リスク増大に直結するため、ストレスチェックを安全対策の一環として位置付け
よくある誤解3つ
- 誤解1: ドライバーは外回りが多いからストレスチェックを実施しにくい → 実際はスマホ対応システムで休憩中に受検可能
- 誤解2: 運転業務は肉体労働だからメンタルよりも身体の健康が重要 → 実際はメンタル不調が居眠り・注意力低下を招き事故リスクを増大させる
- 誤解3: 外国人ドライバーには言語の壁があって実施が難しい → 実際は多言語対応システムで母国語での受検が可能
根拠: 厚生労働省「令和6年度過労死等の労災補償状況」、改正改善基準告示(2024年4月施行)
数字で見る運輸・物流業界のメンタルヘルス状況
| 項目 | 数値 | 出典 |
|---|---|---|
| 脳・心臓疾患による労災請求件数(運輸業・郵便業) | 213件(全業種最多) | 令和6年度過労死等の労災補償状況 |
| 脳・心臓疾患による労災支給決定件数 | 88件(全業種最多) | 同上 |
| 道路貨物運送業の脳・心臓疾患支給決定件数 | 76件(業種中分類で最多) | 同上 |
| 大型トラックドライバーの年間労働時間 | 2,544時間(全産業平均より約2割長い) | 厚生労働省 |
| 2024年4月以降の時間外労働上限 | 年960時間 | 改正改善基準告示 |
| 年間拘束時間上限(見直し後) | 3,300時間(旧3,516時間) | 同上 |
運輸・物流業界特有のストレス要因とは?
運輸・物流業界では、他業種にはない固有のストレス要因が存在します。ストレスチェックを実施する際は、これらの要因を理解したうえで結果を分析することが重要です。
ドライバー特有のストレス要因
| カテゴリ | 具体的なストレス要因 |
|---|---|
| 長時間労働・拘束 | 長距離運転、荷待ち時間(1運行あたり約3時間)、早朝・深夜の発着時間指定 |
| 孤独な作業環境 | 一人での長時間運転、同僚とのコミュニケーション機会の少なさ、休憩場所の限定 |
| 身体的負担 | 荷役作業(積み下ろし)、長時間の同一姿勢、不規則な食事・睡眠 |
| 安全へのプレッシャー | 事故への恐怖、納期遵守のプレッシャー、悪天候での運転ストレス |
| 顧客対応 | 荷主・配送先からのクレーム、再配達対応、時間指定への対応 |
| 将来への不安 | 2024年問題による収入減少懸念、AIや自動運転技術の台頭 |
倉庫作業員特有のストレス要因
| カテゴリ | 具体的なストレス要因 |
|---|---|
| 身体的負担 | 重量物の取り扱い、立ち仕事・歩行、温度変化(冷蔵・冷凍倉庫) |
| 作業環境 | 騒音、粉塵、照明条件、シフト勤務による生活リズムの乱れ |
| 人間関係 | 限られた休憩時間でのコミュニケーション、派遣・請負社員との関係性 |
| 業務負荷 | 繁忙期の急激な作業量増加、ピッキングミスへのプレッシャー |
メンタルヘルス不調と安全リスクの関連
運輸業界では、メンタルヘルス不調が直接的に安全リスクにつながります。
- 睡眠障害による居眠り運転リスク
- 集中力・判断力の低下による事故リスク
- うつ症状に伴う注意力散漫
ストレスチェックを「義務だからやる」のではなく、安全対策の一環として位置付けることが重要です。
2024年問題とメンタルヘルスへの影響
2024年問題とは?
2024年4月から、トラックドライバーにも時間外労働の上限規制(年960時間)が適用されました。これに伴い、改正改善基準告示により拘束時間が短縮されています。
規制内容の変更点
| 項目 | 改正前 | 改正後(2024年4月〜) |
|---|---|---|
| 年間拘束時間 | 3,516時間以内 | 原則3,300時間以内 |
| 月間拘束時間 | 293時間以内 | 原則284時間以内 |
| 休息期間 | 継続8時間以上 | 原則継続11時間与えるよう努める |
| 時間外労働上限 | 規制なし | 年960時間 |
メンタルヘルスへのプラス・マイナス両面の影響
プラス面:
- 労働時間短縮による身体的・精神的負担の軽減
- 生活リズムの安定化
- ワークライフバランスの改善
マイナス面(一時的な影響):
- 収入減少への不安(歩合給の減少)
- 業務効率化へのプレッシャー
- 人手不足による一人当たり負担増
ストレスチェックで変化を把握
2024年問題への対応は、従業員のストレス状況に大きな影響を与えます。ストレスチェックを定期的に実施し、「仕事の量的負担」「収入・報酬への満足度」などの変化を経年で追跡することで、対策の効果や新たな課題を早期に発見できます。
事例1: 運輸業A社(福岡県、支店約300名)—集団分析と職場環境改善の活用
企業概要と導入背景
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 業種 | 運輸業 |
| 従業員数 | 支店約300名 |
| 所在地 | 福岡県 |
| 導入時期 | 2003年から全社的取り組み、2016年から毎年実施 |
| 特徴 | メンタルヘルス対策を安全衛生活動と一体的に推進 |
A社では、2003年という早い段階から全社的にメンタルヘルス対策に取り組んでいます。6月を「メンタルヘルス対策推進月間」と定め、その時期にストレスチェックと集団分析を実施しています。
取り組み内容
1. 集団分析結果の安全衛生委員会での共有
- 保健師が各所属長に集団分析結果にコメントを付けて返却
- 安全衛生委員会で結果を共有し、組織全体で課題を把握
- 高ストレス者には「個人結果シート」とともに面談案内を同封
2. MIRROR(メンタルヘルス改善意識調査票)の活用
- 総合健康リスクが高い5部署を対象に実施
- 回収率99.0%を達成
- 各部署で「ノー残業デー実施」「職場内会議の増加」などの具体的な目標を設定
3. 技能職の多い職場での働き方改革
- ドライバーなど技能職特有の課題に対応
- 部署ごとの改善計画を策定・実行
成果と継続的な取り組み
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 回収率 | 99.0%(MIRROR実施時) |
| 改善施策 | 高リスク部署で具体的な目標設定・実行 |
| 全社展開 | メンタルヘルス対策を安全衛生活動の中核に位置付け |
成功のポイント: 2003年という早期からの取り組み開始により、メンタルヘルス対策が組織文化として定着。集団分析結果を安全衛生委員会で共有することで、部署ごとの課題を可視化し、具体的な改善につなげている。
事例2: 大手運輸グループB社(約8,500名、乗務員が半数以上)—健診と連動した高受検率の実現
企業概要と導入背景
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 業種 | 運輸業(グループ19社の健康管理業務を受託) |
| 対象人員 | 約8,500名(うち運輸業務の乗務員が半数以上) |
| 導入時期 | 2007年から試行開始 |
| 実施方式 | 紙ベース、健康診断と連動 |
| 特徴 | 運輸業界の安全運転とメンタルヘルスを一体管理 |
B社では、西日本鉄道グループ19社における健康管理業務を一括受託しており、運輸業務の乗務員が対象人員の半数以上を占めています。乗務員の健康管理は顧客の安全に直結するため、精神科専門医による継続的なフォローアップ体制を構築しています。
取り組み内容
1. 健康診断との連動による高受検率の実現
- 秋の健康診断実施時にストレスチェックを同時実施
- 看護職が全員と面談を実施し、プライバシー保護を徹底
- 回答を専用封筒に封入するなど、受検しやすい環境を整備
2. 「こころの健康づくり計画」による4つの支援柱
- セルフケア支援
- ラインケア支援
- 事業場内産業保健スタッフ等によるケア
- 事業場外資源によるケア
3. 運輸業界特有の復職支援体制
- 安全運転の観点から薬による眠気等について、主治医に業務内容を説明した上で慎重な確認
- 復職後は社内教習所での訓練と空車運転を経て、段階的に通常業務へ復帰
- 精神科専門医による復職後1年間のフォローアップ面談を実施
4. 継続的な受検率向上の取り組み
- 初期の回収率85%から現在97%まで向上
- システムを活用した「職業性ストレス簡易調査票」による評価
成果
| 指標 | 導入初期 | 現在 |
|---|---|---|
| 回収率 | 85% | 97% |
| 復職後の状況 | - | 再休職が以前と比べると少しずつ減少 |
| 特徴的な取り組み | - | 運輸業務の安全確保とメンタルヘルスケアの一体的推進 |
成功のポイント: 健康診断との連動により高受検率を実現。運輸業界特有の「安全運転」の観点から、復職時の薬剤確認や段階的な業務復帰など、業界の特性を踏まえたきめ細かな支援体制を構築している。
事例について
本記事の事例は、厚生労働省「こころの耳」に掲載されている運輸業界の企業事例を参考に、プライバシー保護のため匿名化して紹介しています。各事例の詳細は以下をご参照ください。
運輸・物流業界でストレスチェックを効果的に活用する5つのポイント
ポイント1: スマホ対応で受検環境を整備する
外回りが多いドライバーや、PC環境がない倉庫作業員にとって、スマートフォンでの受検環境は必須です。
| 従来の課題 | スマホ対応による解決 |
|---|---|
| PCがない、操作に不慣れ | スマホで簡単に回答可能 |
| 事務所に戻る時間がない | 休憩時間・待機時間に受検可能 |
| 受検期間内に受検できない | いつでもどこでも受検可能 |
ポイント2: 点呼・朝礼など既存の接点を活用する
運輸業界には「点呼」という独自の接点があります。この機会を活用して受検勧奨を行うことで、受検率向上が期待できます。
- 出庫前点呼で受検状況を確認
- 帰庫後点呼で未受検者への声かけ
- 運行管理者からの直接的なコミュニケーション
ポイント3: 安全と健康を結びつけたメッセージを発信する
「ストレスチェックは義務だから」ではなく、「安全運転・事故防止のために」というメッセージが効果的です。
効果的なメッセージ例
- 「ストレスは事故の原因になります。早めに気づいて対処しましょう」
- 「心身ともに健康な状態で運転することが、あなたと周りの人を守ります」
- 「疲労やストレスを感じたら、一人で抱え込まずに相談してください」
ポイント4: 外国人労働者への多言語対応を行う
物流業界では外国人労働者の雇用が増加しています。母国語での受検環境を整備することで、正確なストレス状況の把握と受検率向上が期待できます。
ポイント5: 集団分析結果を拠点別・職種別に活用する
運輸・物流業界では、拠点(営業所・物流センター)や職種(ドライバー・倉庫作業員・事務職)によってストレス要因が異なります。
| 分析の切り口 | 確認すべきポイント |
|---|---|
| 拠点別 | 拠点間のストレス格差、管理者のマネジメントスタイルの影響 |
| 職種別 | ドライバーと倉庫作業員のストレス要因の違い |
| 勤務形態別 | 日勤・夜勤・シフト勤務による違い |
| 経年比較 | 2024年問題対応前後の変化 |
関連記事
- ストレスチェック制度とは?義務化の対象・実施手順を徹底解説
- 業種別ストレスチェック活用事例|IT・製造・医療・介護・サービス業の取り組み
- 外国人労働者へのストレスチェック|多言語対応と配慮すべきポイント
- ストレスチェック集団分析完全ガイド|仕事のストレス判定図の読み方と活用法
- 高ストレス者への対応マニュアル|面談から職場復帰まで全手順
ミニ用語集
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 改善基準告示 | トラックドライバー等の拘束時間・休息期間を定めた厚生労働大臣告示。2024年4月に改正 |
| 2024年問題 | 時間外労働上限規制(年960時間)適用による輸送力低下の懸念を指す |
| 点呼 | 運行管理者がドライバーの健康状態等を確認する法定義務。出庫前・帰庫後に実施 |
| 総合健康リスク | ストレスチェック集団分析の指標。100が全国平均、高いほどリスク大 |
| 道路貨物運送業 | トラック運送を主とする業種。脳・心臓疾患の労災支給決定件数が業種中分類で最多 |
| 3PL(サードパーティーロジスティクス) | 物流業務を包括的に受託するサービス形態 |
MentalMapで運輸・物流業界のストレスチェックを効率化
本記事で紹介した運輸・物流業界の課題に対応するため、MentalMapは以下の機能を提供しています。
ドライバー・現場作業員の受検をサポート
- スマートフォン完全対応(PCなしで受検可能)
- QRコードで簡単アクセス
- 自動リマインドで未受検者をフォロー
外国人労働者への多言語対応
- 12言語対応(ベトナム語、タガログ語、ネパール語、インドネシア語など)
- 追加料金なしで多言語利用可能
- 従業員ごとに優先言語を設定可能
拠点別・職種別の集団分析
- 営業所・物流センター単位での分析
- ドライバー・倉庫作業員など職種別の分析
- 全国平均との比較で自社の立ち位置を可視化
57/80/120/141項目すべてに対応
- 厚生労働省推奨の調査票に完全対応
- 企業の状況に応じて最適な項目数を選択可能
参考文献・出典
よくある質問
A. 運輸・物流業界では、外回りが多いドライバーや外国人労働者への対応が課題となります。スマートフォン対応システムの導入、多言語対応、点呼時の受検勧奨など、業界特有の工夫が必要です。また、メンタルヘルス不調が事故リスクに直結するため、安全対策と一体的に推進することが重要です。
A. 2024年4月からの時間外労働上限規制(年960時間)は、長時間労働の改善につながる一方、収入減少への不安や業務効率化へのプレッシャーが新たなストレス要因となる可能性があります。ストレスチェックで定期的に変化を把握し、必要な対策を講じることが重要です。
A. スマートフォン対応システムの導入、休憩時間・待機時間での受検環境整備、点呼時の声かけ、運行管理者からの直接的な勧奨が効果的です。「ストレスチェックは安全運転・事故防止のため」というメッセージで、受検の意義を伝えることが重要です。
A. 多言語対応のストレスチェックシステムを導入し、母国語での受検環境を整備することが重要です。制度の目的や「在留資格に影響しない」ことを明確に説明し、安心して回答できる環境を作りましょう。高ストレス者への面接指導時には通訳対応も検討してください。
A. 厚生労働省の令和6年度過労死等の労災補償状況によると、脳・心臓疾患による労災請求件数は「運輸業、郵便業」が213件で全業種最多、支給決定件数も88件で最多です。特に「道路貨物運送業」が76件と突出しています。メンタルヘルス対策と過重労働対策の両面からの取り組みが必要です。