実施事務従事者の役割と選任要件|ストレスチェックを支える事務担当者
実施事務従事者とはストレスチェックの実施者を補助する事務担当者。特別な資格は不要だが、人事権を有する者は就任不可。衛生管理者や産業保健スタッフが担当するケースが多い。守秘義務違反には6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金。選任要件、業務内容、実施者との違いを解説。

結論(2行で分かる) 実施事務従事者とは、ストレスチェックの実施者を補助し、調査票の配布・回収やデータ入力などの事務を行う担当者である。特別な資格は不要だが、人事権を有する者(解雇・昇進・異動の権限を持つ者)は就任できず、守秘義務違反には6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科される。
この記事の対象読者
- ストレスチェックの実施体制を構築する人事・総務担当者
- 実施事務従事者として指名される可能性がある従業員
- 外部委託と自社実施のどちらが良いか検討している事業場
ポイント(5つ)
- 実施事務従事者に特別な資格は不要
- 人事権を有する者(人事部長、直属の上司等)は就任不可
- 衛生管理者や産業保健スタッフが担当するケースが多い
- 実施者の指示のもとで事務作業を行う
- 守秘義務が課され、違反時は刑事罰の対象
よくある誤解3つ
- 誤解1: 人事部の社員は全員なれない → 人事権を持たなければ就任可能
- 誤解2: 実施事務従事者も医療資格が必要 → 資格は不要
- 誤解3: 上司に頼まれたら結果を教えてもよい → 守秘義務違反で刑事罰の対象
根拠: 労働安全衛生法第66条の10、労働安全衛生規則第52条の10、労働安全衛生法第104条・第119条
実施事務従事者 早見表
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 定義 | 実施者の指示により、ストレスチェックの実施の事務に携わる者 |
| 資格要件 | 不要(医療資格なしで就任可能) |
| 就任できない者 | 人事権を有する者(解雇・昇進・異動の権限を持つ監督的地位にある者) |
| 典型的な担当者 | 衛生管理者、産業保健スタッフ、総務・庶務担当者 |
| 守秘義務 | あり(労働安全衛生法第104条) |
| 違反時の罰則 | 6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
| 外部委託 | 可能 |
実施事務従事者とは何か?
法令上の定義
実施事務従事者とは、厚生労働省「ストレスチェック制度実施マニュアル」において「実施者のほか、実施者の指示により、ストレスチェックの実施の事務(個人の調査票のデータ入力、結果の出力又は記録の保存等を含む。)に携わる者」と定義されている1。
つまり、ストレスチェックの実施者(医師・保健師等の有資格者)を補助し、事務作業を担当する人のことを指す。
なぜ実施事務従事者が必要なのか?
ストレスチェック制度では、以下の事務作業が発生する。
- 調査票の配布・回収
- データ入力・集計
- 結果の出力・封入
- 記録の保存
これらの作業を医師や保健師などの実施者がすべて行うことは現実的ではない。そのため、実施者の指示のもとで事務作業を担う「実施事務従事者」を置くことが認められている。
実施事務従事者は、実施者の指示に基づいて業務を行う。独自の判断で結果の評価や高ストレス者の選定を行うことはできない。
実施事務従事者の具体的な業務内容
主な業務一覧
実施事務従事者が担当する主な業務は以下のとおり2。
| 業務 | 内容 |
|---|---|
| 調査票の配布・回収 | 紙の調査票を配布し、記入後に回収する |
| データ入力・集計 | 回答内容をシステムに入力し、集計する |
| 評価点数の算出 | 集計プログラムを使用して点数を算出する |
| 結果の出力 | 評価基準に基づく結果を出力する |
| 結果の封入・通知 | 結果を封筒に入れ、労働者に通知する |
| 受検勧奨 | 未受検の労働者に受検を促す |
| 記録の保存 | 結果記録を適切に保存する |
| 面接指導の勧奨 | 高ストレス者に面接指導の申出を勧める |
「実施の事務」と「その他の事務」の区別
ストレスチェック制度における事務作業は、大きく2種類に分けられる3。
| 種類 | 内容 | 人事権を有する者 |
|---|---|---|
| 実施の事務 | 個人の健康情報を直接取り扱う業務 | 従事不可 |
| その他の事務 | 個人情報に直接関わらない業務 | 従事可能 |
実施の事務(人事権を有する者は不可):
- 調査票の回収・データ入力
- 結果の出力・通知
- 記録の保存
その他の事務(人事権を有する者も可能):
- 実施計画の策定
- 外部機関との契約手続き
- 実施日時の周知
- 受検率の集計(個人を特定しない形式)
人事権を有する者が「実施の事務」に関与すると法令違反になります。「その他の事務」との区別を明確にしておくことが重要です。
判断基準: 「その業務を通じて、特定の個人の検査結果を知り得るか」で区別できます。知り得る業務は「実施の事務」、知り得ない業務は「その他の事務」です。
→ 役割分担の詳細は「ストレスチェックの担当者と役割分担」をご覧ください。
実施事務従事者の選任要件
資格要件
実施事務従事者には、特別な資格は求められていない。医療資格がなくても就任可能である4。
| 項目 | 実施者 | 実施事務従事者 |
|---|---|---|
| 資格要件 | 医師・保健師等の有資格者 | 不要 |
| 役割 | 結果の評価・判定 | 事務作業の補助 |
典型的な選任パターン
実務上、以下のような者が実施事務従事者として選任されることが多い。
| 担当者 | 適任理由 |
|---|---|
| 衛生管理者 | 労働衛生に関する知識があり、従業員の健康管理に携わっている |
| 産業保健スタッフ | 保健師・看護師など、健康情報の取り扱いに慣れている |
| 総務・庶務担当者 | 社内文書の管理に精通している(人事権がない場合) |
| 外部委託先 | 専門的なノウハウと設備を持っている |
人事権を有する者の制限
労働安全衛生規則第52条の10第2項では、以下のように規定されている5。
「検査を受ける労働者について解雇、昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者は、検査の実施の事務に従事してはならない」
就任できない者の例:
| 役職 | 就任可否 | 理由 |
|---|---|---|
| 人事部長 | 不可 | 人事権を有する |
| 人事課長 | 不可 | 人事権を有する |
| 直属の上司 | 不可 | 部下の人事評価権限を持つ |
| 経営者・役員 | 不可 | 人事権を有する |
| 人事部の一般社員 | 可能 | 人事権を持たない場合 |
| 衛生管理者 | 可能 | 人事権を持たない場合 |
人事部門に所属しているだけでは除外されない。 重要なのは「人事権を有しているかどうか」である。人事評価や配置決定に関与しない立場であれば、人事部門の社員でも就任可能6。
なぜ人事権を有する者は就任できないのか?
ストレスチェックの結果は、従業員の心身の健康状態を示すセンシティブな情報である。この情報が人事評価や配置転換に不当に利用されることを防ぐため、法令で明確に制限されている。
想定されるリスク:
- 高ストレス者であることを理由に昇進を見送られる
- ストレスチェックの結果を根拠に配置転換される
- 面接指導を申し出たことで不利益な扱いを受ける
このような事態を防ぐため、人事権を有する者は個人の結果情報に直接アクセスできない仕組みになっている。
実施者との違い
実施事務従事者と実施者は、ストレスチェック制度において異なる役割を担う。
役割の比較
| 項目 | 実施者 | 実施事務従事者 |
|---|---|---|
| 資格 | 医師・保健師等の有資格者 | 不要 |
| 主な役割 | 結果の評価・判定 | 事務作業の補助 |
| 高ストレス者の選定 | 行う | 行わない(出力のみ) |
| 面接指導の要否判断 | 行う | 行わない |
| 守秘義務 | あり | あり |
| 人事権を有する者 | なれない | なれない |
業務の流れにおける役割分担
- 調査票の配布 → 実施事務従事者
- 調査票の回収 → 実施事務従事者
- データ入力・集計 → 実施事務従事者
- 結果の評価・高ストレス者の選定 → 実施者
- 結果の出力・封入 → 実施事務従事者
- 労働者への結果通知 → 実施者から通知(事務作業は実施事務従事者)
- 面接指導の要否判断 → 実施者
- 記録の保存 → 実施事務従事者
実施事務従事者は「実施者の指示のもとで」業務を行う。判断を伴う業務(評価・選定・要否判断)は実施者の役割である。
→ 実施者の詳細は「ストレスチェック実施者の要件とは?」をご覧ください。
守秘義務と罰則
守秘義務の法的根拠
実施事務従事者には、労働安全衛生法第104条により守秘義務が課される6。
「ストレスチェックの実施の事務に従事した者は、その実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはならない」
守秘義務の範囲
| 対象 | 守秘義務 |
|---|---|
| ストレスチェックの回答内容 | あり |
| 高ストレス者かどうか | あり |
| 面接指導の申出有無 | あり |
| 受検したかどうか | あり |
| 集団分析の結果(10人未満) | あり |
罰則
守秘義務に違反した場合、労働安全衛生法第119条により以下の刑事罰が科される7。
| 罰則 | 内容 |
|---|---|
| 拘禁刑 | 6月以下 |
| 罰金 | 50万円以下 |
上司や経営者から指示されても、守秘義務は免除されない。 実施事務従事者は、実施者の指示のもとで業務を行うものであり、人事部門の上司や経営者から「結果を教えろ」と言われても、それに応じることは法令違反となる。
守秘義務の期限
守秘義務には期限がない。実施事務従事者を退任した後、あるいは退職後であっても、業務上知り得た情報を漏らすことは禁止されている。
社内規程での明示方法
衛生委員会での審議事項
ストレスチェック制度の実施に際して、以下の事項を衛生委員会で審議し、社内規程に定めることが求められる。
| 審議事項 | 内容 |
|---|---|
| 実施者の選任 | 誰が実施者を務めるか |
| 実施事務従事者の選任 | 誰が実施事務従事者を務めるか |
| 調査票の種類 | 57項目版、80項目版など |
| 高ストレス者の選定基準 | 判定方法と基準値 |
| 結果の保存方法 | 保存場所、セキュリティ対策 |
実施事務従事者の明示方法
実施事務従事者を社内規程で明示する際、以下の方法が認められている8。
| 方法 | 例 |
|---|---|
| 個人名で明示 | 「総務部 山田太郎」 |
| 部署名で明示 | 「総務部の職員」 |
| 役職名で明示 | 「衛生管理者」 |
個人情報を取り扱う者が複数おり、個人まで明記することが困難な場合は、「●●課の職員」といったように部署名で示すことも可能とされている(厚生労働省Q&A)。
外部委託する場合の注意点
外部委託のメリット
実施事務従事者の業務を外部機関に委託することも認められている。
| メリット | 内容 |
|---|---|
| 専門性 | ストレスチェックに特化した知識・ノウハウ |
| 中立性 | 社内の人間関係に左右されない |
| 人事権の問題回避 | 社内の人事権問題を気にせず実施可能 |
| 業務負担軽減 | 社内スタッフの負担を軽減 |
外部委託時の確認事項
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 個人情報管理体制 | 適切なセキュリティ対策があるか |
| 守秘義務の徹底 | 従業員への守秘義務教育があるか |
| 記録の保存方法 | 5年間の保存体制があるか |
| 実施者の確保 | 医師・保健師等の有資格者がいるか |
脚注
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ミニ用語集
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 実施事務従事者 | 実施者の指示のもとでストレスチェックの事務を行う者。人事権を有する者は就任不可 |
| 実施者 | ストレスチェックを企画し、結果の評価を行う医師・保健師等の有資格者 |
| 人事権 | 解雇、昇進、異動に関する直接の権限 |
| 守秘義務 | 業務上知り得た秘密を漏らしてはならない義務(違反は刑事罰) |
| 衛生管理者 | 労働安全衛生法に基づき選任される、労働者の健康管理を担当する者 |
| 実施の事務 | 個人の健康情報を直接取り扱う業務。人事権を持つ者は従事不可 |
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料金
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Footnotes
参考文献・出典
よくある質問
A. 特別な資格は必要ありません。医療資格がなくても就任可能です。ただし、人事権を有する者(解雇・昇進・異動の権限を持つ監督的地位にある者)は就任できません。
A. 人事部に所属していても、人事権(解雇・昇進・異動の直接の権限)を持たなければ就任可能です。人事評価や配置決定に関与しない一般社員であれば、実施事務従事者として選任できます。
A. 労働安全衛生法第119条により、6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科されます。上司や経営者から指示されても、守秘義務は免除されません。
A. 実施者は医師・保健師等の有資格者で、結果の評価・高ストレス者の選定・面接指導の要否判断を行います。実施事務従事者は資格不要で、実施者の指示のもと調査票の配布・回収、データ入力、結果の出力などの事務作業を担当します。
A. 可能です。外部委託する場合は、委託先の個人情報管理体制、守秘義務の徹底、5年間の記録保存体制などを確認することが重要です。