ストレスチェックと健康診断の違い|目的・義務・結果の取り扱いを比較
ストレスチェックと健康診断の違いを徹底比較。目的(一次予防vs二次予防)、法的根拠(第66条の10vs第66条)、結果の取り扱い、同時実施のメリット・注意点を解説。

結論(2行で分かる) ストレスチェックはメンタルヘルス不調の未然防止(一次予防)を目的とし、健康診断は疾病の早期発見・早期治療(二次予防)を目的とする。最大の違いは結果の取り扱いで、ストレスチェックは本人同意なしに事業者へ通知できない。
対象読者: 人事労務担当者、衛生管理者、経営者(両制度の違いを正確に理解したい方)
主な違い(5つ)
- 目的: ストレスチェック=一次予防(未然防止)、健康診断=二次予防(早期発見)
- 法的根拠: ストレスチェック=労働安全衛生法第66条の10、健康診断=労働安全衛生法第66条
- 受検義務: 健康診断=労働者に受診義務あり、ストレスチェック=労働者に受検義務なし
- 結果の通知: 健康診断=事業者が結果を把握、ストレスチェック=本人同意なしに事業者へ通知禁止
- 同時実施: 可能だが、それぞれの結果の取り扱いルールは別々に適用
根拠: 労働安全衛生法第66条・第66条の10、厚生労働省「ストレスチェック制度実施マニュアル」、こころの耳
早見比較表|ストレスチェックと健康診断
| 項目 | ストレスチェック | 健康診断 |
|---|---|---|
| 法的根拠 | 労働安全衛生法 第66条の10 | 労働安全衛生法 第66条 |
| 施行時期 | 2015年12月〜 | 1972年〜(労働安全衛生法制定時) |
| 目的 | 一次予防(未然防止) | 二次予防(早期発見・早期治療) |
| 対象 | 常時使用する労働者 | 常時使用する労働者 |
| 事業場規模 | 50人以上(2028年頃に50人未満も義務化) | 規模を問わず全事業場 |
| 実施頻度 | 年1回以上 | 年1回以上(特定業務は年2回) |
| 労働者の受検義務 | なし(努力義務) | あり |
| 結果の事業者通知 | 本人同意が必要 | 事業者が直接把握 |
| 結果の保存期間 | 5年間 | 5年間 |
| 労基署報告 | 50人以上の事業場は年1回 | 50人以上の事業場は年1回 |
| 罰則 | 報告義務違反に50万円以下の罰金 | 実施義務違反に50万円以下の罰金 |
目的の違い|一次予防と二次予防
ストレスチェックと健康診断は、どちらも労働者の健康を守るための制度ですが、予防医学における位置づけが異なります。
一次予防・二次予防・三次予防とは?
厚生労働省では、メンタルヘルス対策を3段階に分類しています。
| 段階 | 内容 | 該当する制度 |
|---|---|---|
| 一次予防 | 病気を未然に防ぐ | ストレスチェック |
| 二次予防 | 早期発見・早期治療 | 健康診断 |
| 三次予防 | 職場復帰支援 | 復職支援プログラム等 |
ストレスチェックの目的(一次予防)
ストレスチェック制度は、労働者がメンタルヘルス不調になることを未然に防止する一次予防を主な目的としています。
具体的には以下の3つの効果を狙っています。
- セルフケアの促進: 労働者自身がストレス状況に気づき、対処するきっかけを作る
- 職場環境改善: 集団分析により部署ごとの課題を把握し、職場環境を改善する
- 高ストレス者への対応: 面接指導によりメンタルヘルス不調のリスクを低減する
重要: ストレスチェック制度は、メンタルヘルス不調者の発見を一義的な目的としていません。「病気の人を見つける」のではなく、「病気になる前に気づかせる」ことが目的です。
健康診断の目的(二次予防)
健康診断は、すでに健康異常が発生している段階で、早期発見・早期治療を行う二次予防を目的としています。
- 定期的な検査により疾病を早期に発見する
- 有所見者への保健指導を行う
- 疾病が分かった場合に早期治療につなげる
法的根拠の違い|労働安全衛生法の条文
ストレスチェック:労働安全衛生法 第66条の10
第六十六条の十(心理的な負担の程度を把握するための検査等)
事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。
第2項では、結果の通知について以下のように定められています。
当該医師等は、あらかじめ当該検査を受けた労働者の同意を得ないで、当該労働者の検査の結果を事業者に提供してはならない。
健康診断:労働安全衛生法 第66条
第六十六条(健康診断)
事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行わなければならない。
第5項では、労働者の受診義務について以下のように定められています。
労働者は、前各項の規定により事業者が行なう健康診断を受けなければならない。
条文から読み取れる違い
| 項目 | ストレスチェック(第66条の10) | 健康診断(第66条) |
|---|---|---|
| 検査の内容 | 心理的な負担の程度 | 医師による身体的検査 |
| 実施者 | 医師、保健師等 | 医師(歯科医師を含む) |
| 結果の通知 | 本人同意なしに事業者へ通知禁止 | 事業者が把握可能 |
| 労働者の義務 | 規定なし(努力義務) | 受診義務あり |
実施義務の違い|事業場規模と労働者の義務
事業者の実施義務
| 事業場規模 | ストレスチェック | 健康診断 |
|---|---|---|
| 50人以上 | 義務 | 義務 |
| 50人未満 | 努力義務(2028年頃に義務化) | 義務 |
健康診断は事業場の規模を問わず全ての事業者に実施義務があります。一方、ストレスチェックは現時点で50人以上の事業場に限定されています。
2028年頃に50人未満も義務化
2025年5月公布の改正労働安全衛生法により、50人未満の事業場へのストレスチェック義務化が決まりました。施行は2028年頃の予定です。
労働者の受検・受診義務
| 制度 | 労働者の義務 | 拒否した場合 |
|---|---|---|
| 健康診断 | 受診義務あり(第66条第5項) | 就業規則による懲戒対象になりうる |
| ストレスチェック | 受検義務なし | 不利益取扱い禁止 |
健康診断には労働者の受診義務が法律で明記されています。一方、ストレスチェックには受検義務がなく、受検しないことを理由とした不利益取扱いは禁止されています。
なぜストレスチェックに受検義務がないのか?
ストレスチェックの目的は「セルフケアのきっかけを作る」ことであり、強制的に受検させてもその効果は期待できません。また、メンタルヘルスに関する情報は非常にセンシティブであり、労働者の自主性を尊重する必要があるためです。
結果の取り扱いの違い|本人同意と事業者通知
ストレスチェックと健康診断の最も重要な違いは、結果の取り扱いです。
結果の通知フロー
健康診断の場合
医師 → 事業者 → 労働者
- 健康診断の結果は、医師から事業者に通知される
- 事業者は結果を受けて事後措置を講じる
- 事業者は労働者に結果を通知する義務がある(第66条の6)
ストレスチェックの場合
実施者 → 労働者(本人のみ)
↓(本人同意がある場合のみ)
事業者
- 結果は実施者(医師・保健師等)から直接本人に通知される
- 事業者が結果を把握するには本人の同意が必要
- 同意なしに事業者へ結果を提供することは法律で禁止
本人同意の取得ルール
厚生労働省の指針では、同意の取得について以下のルールが定められています。
同意取得のタイミング
事業者は、ストレスチェックの実施前または実施時に労働者の同意を取得してはなりません。結果を本人に通知した後に同意を取得する必要があります。
| 同意取得の方法 | 可否 |
|---|---|
| 結果通知後に個々人ごとに同意を確認 | 可 |
| 面接指導の申出をもって同意とみなす | 可 |
| 実施前に一括で同意を取得 | 不可 |
| 就業規則で一律に同意を規定 | 不可 |
なぜストレスチェックは本人同意が必要なのか?
ストレスチェックの結果は、メンタルヘルスに関するセンシティブな情報です。事業者が本人の同意なく結果を把握できると、以下の懸念が生じます。
- 「高ストレス者」というラベルを貼られることへの不安
- 人事評価や配置転換への影響を恐れて正直に回答しない
- 結果として制度の効果が損なわれる
本人同意を必須とすることで、労働者が安心して正直に回答できる環境を整えています。
事後措置の違い|医師の意見聴取と就業上の措置
健康診断の事後措置
健康診断で異常の所見があった場合、事業者は以下の措置を講じなければなりません。
- 医師からの意見聴取(3か月以内)
- 就業上の措置: 就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮等
- 保健指導: 必要に応じて医師または保健師による指導
事業者は健康診断の結果を把握しているため、異常所見のある労働者に対して直接措置を講じることができます。
ストレスチェックの事後措置
ストレスチェックで高ストレスと判定された場合、事後措置は以下の流れで行われます。
- 高ストレス者への結果通知(実施者から本人へ直接)
- 面接指導の申出(本人の希望による)
- 医師による面接指導の実施(申出があった場合、事業者が実施)
- 医師からの意見聴取(おおむね1か月以内)
- 就業上の措置: 就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮等
面接指導は本人の申出が必要
ストレスチェックの面接指導は、高ストレス者本人が申し出た場合にのみ実施されます。本人が申出をしない場合、事業者は面接指導を強制することはできません。ただし、申出を促すことは認められています。
同時実施のメリットと注意点
厚生労働省は、ストレスチェックと健康診断の同時実施を認めています。
同時実施のメリット
| メリット | 内容 |
|---|---|
| 受検率の向上 | 定期健康診断と同時に実施すると、ストレスチェックの受検率が有意に高い(厚生労働省研究報告) |
| 従業員の負担軽減 | 2つの検査を別々に実施する手間が省ける |
| 事務作業の効率化 | 配布・回収・周知を一本化できる |
| 健康情報の一元管理 | 身体的健康とメンタルヘルスを総合的に把握できる |
同時実施の注意点
同時に実施する場合でも、それぞれの制度のルールは別々に適用されます。
| 項目 | 健康診断 | ストレスチェック |
|---|---|---|
| 結果の取り扱い | 事業者が把握 | 本人同意が必要 |
| 受検義務 | あり | なし |
| 実施者 | 医師 | 医師・保健師等 |
結果を混同しない
同時実施する場合、健康診断の結果とストレスチェックの結果を明確に区別する必要があります。ストレスチェックの結果を健康診断の結果と一緒に事業者に送付することは、本人の同意がない限り認められません。
実施時期の調整
健康診断を誕生月ごとに実施している事業場では、同時実施に注意が必要です。
- 健康診断: 誕生月ごとに個別実施も可
- ストレスチェック: 全ての対象労働者について同時期に行うことが望ましい
集団分析を行う場合、ストレスチェックは全員が同時期に受検することで、より正確な比較・分析が可能になります。
ミニ用語集
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 一次予防 | 病気を未然に防ぐこと。ストレスチェック、職場環境改善等が該当 |
| 二次予防 | 病気の早期発見・早期治療。健康診断、保健指導等が該当 |
| 三次予防 | 病気からの回復、職場復帰支援 |
| 高ストレス者 | ストレスチェックで高ストレスと判定された労働者 |
| 面接指導 | 高ストレス者が希望した場合に医師が行う面談 |
| 実施者 | ストレスチェックを実施する医師・保健師等 |
| 事後措置 | 検査結果に基づき事業者が講じる就業上の措置 |
まとめ|ストレスチェックと健康診断の使い分け
両制度の位置づけ
- ストレスチェック: メンタルヘルス不調の未然防止(一次予防)
- 健康診断: 身体疾患の早期発見・早期治療(二次予防)
押さえるべきポイント
- 目的が異なる: ストレスチェックは予防、健康診断は発見
- 結果の取り扱いが異なる: ストレスチェックは本人同意が必要、健康診断は事業者が把握
- 受検義務が異なる: 健康診断は義務、ストレスチェックは努力義務
- 同時実施は可能: ただし、それぞれのルールは別々に適用
- 50人未満も義務化予定: ストレスチェックは2028年頃に全事業場義務化
両制度を適切に運用することで、従業員の身体的健康とメンタルヘルスの両方を守ることができます。
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参考文献・出典
よくある質問
A. 最も重要な違いは結果の取り扱いです。健康診断は事業者が結果を把握できますが、ストレスチェックは本人の同意なしに事業者へ通知することが禁止されています(労働安全衛生法第66条の10)。
A. 同時実施は可能です。厚生労働省の研究でも、健康診断と同時期に実施すると受検率が向上することが報告されています。ただし、結果の取り扱いはそれぞれの制度のルールに従う必要があります。
A. 健康診断には労働者の受診義務がありますが、ストレスチェックには受検義務がありません。ストレスチェックを受検しないことを理由とした不利益取扱いは禁止されています。
A. ストレスチェックの結果はメンタルヘルスに関するセンシティブな情報です。本人同意を必須とすることで、労働者が人事評価への影響を心配せず正直に回答できる環境を整えています。
A. ストレスチェックはメンタルヘルス不調を未然に防ぐ「一次予防」が目的です。健康診断は疾病の早期発見・早期治療を行う「二次予防」が目的です。ストレスチェックは病気の人を見つけるのではなく、病気になる前に気づかせることが目的です。
A. 健康診断は事業場規模を問わず全ての事業者に実施義務があります。ストレスチェックは現在50人以上の事業場のみ義務ですが、2028年頃に50人未満の事業場にも義務化されます。