ラインによるケアの基本と実践|管理監督者が行うメンタルヘルス対策
厚労省指針に基づくラインによるケア(ラインケア)を徹底解説。2024年度の精神障害労災認定は過去最多1,055件、2028年には50人未満事業場も義務化へ。管理監督者の役割、「いつもと違う」部下への気づき方、傾聴を基本とした相談対応、職場環境改善の具体的方法まで。4つのケアにおけるラインケアの位置づけと実践ポイントを紹介。

結論(2行で分かる) ラインによるケアとは、管理監督者(上司)が日頃の職場環境の把握と改善、部下の「いつもと違う」変化への気付き、相談対応を行うメンタルヘルス対策。厚生労働省指針「4つのケア」の中核を担い、早期発見・早期対応の要となる。
この記事の対象読者
- 部下のメンタルヘルス対応に悩む管理職・リーダー
- ラインケア研修を企画する人事・総務担当者
- 4つのケアの実践方法を知りたい衛生管理者
ポイント(ラインケアの3つの柱)
- 職場環境の把握と改善: ストレス要因を特定し、働きやすい環境を整える
- 部下の変化への気付き: 「いつもと違う」サインを見逃さない
- 相談対応: 傾聴を基本とし、必要に応じて専門家につなぐ
よくある誤解3つ
- 誤解1: ラインケアは管理職個人の負担 → 実際は組織的な支援体制が不可欠
- 誤解2: 部下の診断・治療まで行う → 実際は産業医等の専門家につなぐ役割
- 誤解3: 問題が起きてから対応すればよい → 実際は日常的な観察と予防が重要
根拠: 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平成18年3月策定、令和6年7月改正)1
ラインによるケア 早見表
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 定義 | 管理監督者が職場環境改善と部下の相談対応を行うケア |
| 主体 | 部長・課長・係長等の管理監督者(上司) |
| 法的根拠 | 労働契約法第5条(安全配慮義務)1 |
| 主な役割 | 職場環境改善、変化への気付き、相談対応、職場復帰支援 |
| 位置づけ | 4つのケアの中で最も日常的・継続的に行われるケア |
なぜ今、ラインケアが重要なのか?
増加する精神障害の労災認定
2024年度の精神障害による労災支給決定件数は1,055件と過去最多を記録し、初めて1,000件を超えました2。認定の原因として最も多いのは「上司等からのパワーハラスメント」(224件)であり、管理監督者によるラインケアの重要性がこれまで以上に高まっています。
| 年度 | 精神障害の労災支給決定件数 |
|---|---|
| 2020年度 | 608件 |
| 2021年度 | 629件 |
| 2022年度 | 710件 |
| 2023年度 | 883件 |
| 2024年度 | 1,055件(過去最多) |
2028年からの法改正(50人未満義務化)
2025年5月に労働安全衛生法が改正され、これまで努力義務だった50人未満の事業場でもストレスチェックが義務化されることが決定しました。施行は2028年を予定しており、中小企業を含むすべての事業場でメンタルヘルス対策の強化が求められます3。
ストレスチェック義務化の拡大に伴い、管理監督者によるラインケアの役割はさらに重要になります。集団分析結果を活用した職場環境改善は、管理監督者が主導することが期待されています。
ラインによるケアとは?
厚労省指針における定義
ラインによるケアとは、厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」に基づき、管理監督者が心の健康に関して職場環境等の改善や労働者に対する相談対応を行うケアです4。
管理監督者とは、部長・課長・係長など、部下を持ち、業務上の指揮命令権を持つ立場の者を指します。役職名は企業によって異なりますが、「部下の業務を管理し、労働条件に配慮できる立場にある者」がラインケアの担い手です。
4つのケアにおける位置づけ
厚生労働省指針では、メンタルヘルスケアを4つのケアで推進することが示されています。
| ケア | 主体 | 主な役割 |
|---|---|---|
| セルフケア | 労働者自身 | ストレスへの気付き、予防対処 |
| ラインによるケア | 管理監督者 | 職場環境改善、部下の相談対応 |
| 事業場内産業保健スタッフ等によるケア | 産業医・保健師等 | 専門的支援、計画策定 |
| 事業場外資源によるケア | 外部専門機関 | 専門的サービス提供 |
ラインによるケアは、日常的に部下と接する管理監督者だからこそ担える役割であり、4つのケアの中で最も継続的・日常的に行われるべきケアです。
なぜラインケアが重要なのか?
法的根拠:安全配慮義務
労働契約法第5条では「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定められています1。
この「生命、身体等の安全」には心身の健康(メンタルヘルス)も含まれると解釈されており、企業には従業員のメンタルヘルスに配慮する義務があります。管理監督者は、法人に代わって安全配慮義務を負う責任者となり得ます。
ラインケアが重要な3つの理由:
- 早期発見: 日常的に部下と接するため、変化に最も早く気付ける
- 職場環境改善: 業務量や人間関係など、職場のストレス要因に直接介入できる
- 信頼関係: 日頃の関係性があれば、部下が相談しやすい
管理監督者の役割と責任
ラインケアで求められる4つの役割
厚生労働省「こころの耳」のeラーニング「15分でわかるラインによるケア」では、管理監督者の役割として以下の4つが示されています5。
| 役割 | 内容 |
|---|---|
| 1. 部下の異変察知 | 「いつもと違う」部下に早く気づく |
| 2. 相談対応 | 部下からの相談に適切に対応する |
| 3. 職場組織への対応 | 職場環境の把握と改善を行う |
| 4. 職場復帰支援 | 休職者の復職をサポートする |
管理監督者がやるべきこと・やってはいけないこと
やるべきこと:
- 日頃から部下の様子を観察し、「いつも」を把握しておく
- 変化に気付いたら声をかけ、話を聴く
- 必要に応じて産業医や保健師につなぐ
- 職場環境のストレス要因を把握し、改善に取り組む
- 相談しやすい雰囲気を作る
やってはいけないこと:
- 病気の診断や治療方法について判断すること
- 無理に相談を強制すること
- 相談内容を本人の同意なく他者に漏らすこと
- 「気にしすぎ」「甘え」と決めつけること
- 本人の同意なく配置転換等の措置を取ること
部下の変化への気づき方—「いつもと違う」サイン
「いつもと違う」とは何か?
ラインによるケアで最も大切なのは、管理監督者が「いつもと違う」部下に早く気づくことです。
厚生労働省の資料によると、「いつもと違う」という感じを持つのは、部下がそれまでに示してきた行動様式からズレた行動をするからです4。
変化に気付くためには、まず「いつも」を知っておくことが必要です。日頃から部下に関心を持ち、表情、体調、服装、勤務上の様々な行動の様子を把握しておきましょう。
「いつもと違う」具体的なサイン
| カテゴリ | 具体例 |
|---|---|
| 勤怠 | 遅刻・早退・欠勤が増える、無断欠勤がある、残業が急増する |
| 業務遂行 | ミスが増える、仕事の効率が落ちる、報告・連絡・相談がなくなる |
| 態度・表情 | 表情に活気がない、元気がない、口数が減る、イライラしている |
| 対人関係 | 職場での会話が減る、逆にいつもより多弁になる、孤立している |
| 身だしなみ | 服装が乱れる、いつも同じ服を着ている、清潔感がなくなる |
具体的な状況例:
- 今まで欠勤などなかったのに休みがちになっている
- 元気な人だったのに最近表情に乏しい
- ミスがなかった人なのに簡単なミスが続くようになった
- 今まで穏やかな人だったのに、周囲に当たるような言動がみられる
変化に気付いたらどうする?
「いつもと違う」部下に気付いたら、以下のステップで対応します。
ステップ1: 声をかける
- 「最近どう?」「何か困っていることはない?」と声をかける
- 否定や批判をせず、まずは話を聴く姿勢を示す
ステップ2: 話を聴く
- 傾聴を基本とし、部下の話を最後まで聴く
- 「あなたの話を○○と理解したけど、合っているかな?」と確認する
ステップ3: 専門家につなぐ
- 病気の可能性がある場合は、産業医や保健師に相談するよう促す
- 管理監督者自身が産業医に相談に行くことも有効
管理監督者は病気の診断ができる立場ではありません。「いつもと違う」変化に気付いたら、産業医もしくはそれに代わる医師の判断を仰ぐ仕組みを事業場の中に作っておくことが重要です。
相談対応の具体的方法—傾聴のすすめ
傾聴とは何か?
厚生労働省「こころの耳」では、管理監督者が「傾聴」という積極的な聞き方を実践することを推奨しています6。
傾聴の効果:
- 上司が聴き上手になることで、部下は意見を述べやすくなる
- 職場のコミュニケーションが改善され、職場が活性化する
- 部下が相談しやすくなり、早期対応が可能になる
- メンタルヘルス不調の発生が予防できる
傾聴の5つのポイント
厚生労働省「こころの耳」では、傾聴の5つのポイントが示されています6。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 1. 環境を整える | 周囲に聞こえない場所、心に余裕を持てる時間を確保する |
| 2. 非言語を意識する | 穏やかな表情・視線、落ち着いた姿勢で関心を伝える |
| 3. うなずき・相槌 | 自然で落ち着いたテンポで、心のこもったうなずきを返す |
| 4. 最後まで聴いて確認 | 話を遮らず、理解した内容を確認する |
| 5. 誠意ある対応 | 回答できない場合は素直に伝え、適切な相談相手を紹介する |
相談対応で避けるべきこと
相談対応のNG例:
- 話を遮って自分の意見を述べる
- 「気にしすぎ」「みんな大変なんだから」と否定する
- すぐにアドバイスや解決策を提示しようとする
- 他の業務をしながら話を聴く
- 相談内容を本人の許可なく他者に話す
相談に抵抗がある部下への対応
部下が相談に抵抗を示す場合、無理に相談を強制するのではなく、「あなたの代わりに私が相談に行ってくるよ」と提案する配慮も効果的です。
管理監督者自身が産業医や保健師に「このような部下がいるが、どう対応したらよいか」と相談することで、適切な対応方法を学ぶことができます。
職場環境改善の取り組み
職場環境改善とは?
職場環境等の改善とは、職場の物理的レイアウト、労働時間、作業方法、組織、人間関係などの職場環境を改善することで、労働者のストレスを軽減しメンタルヘルス不調を予防しようとする方法です。
職場に存在するストレス要因は、労働者自身の力だけでは取り除くことができないものもあります。だからこそ、管理監督者による職場環境改善が重要なのです。
職場改善のためのヒント集
厚生労働省では「職場改善のためのヒント集(メンタルヘルスアクションチェックリスト)」を提供しています7。これは全国の成功事例を集約し、6つの領域、30項目に分類したチェックリスト形式のツールです。
6つの領域:
- 作業計画への参加と情報の共有
- 勤務時間と作業編成
- 円滑な作業手順
- 作業場環境
- 職場内の相互支援
- 安心できる職場のしくみ
ストレスチェック集団分析の活用
ストレスチェック制度では、検査結果を集団的に分析し、職場環境の改善につなげることが求められています。
集団分析の活用方法:
- 部署別のストレス状況を把握する
- 高ストレス部署の要因を分析する
- 改善施策を立案し、実施する
- 翌年の結果で改善効果を検証する
管理監督者への教育研修
研修内容の例
厚生労働省指針では、管理監督者に対して以下の内容を含む教育研修を実施することが求められています。
| 研修項目 | 内容 |
|---|---|
| メンタルヘルスケアに関する事業場の方針 | 会社としての取り組み姿勢を理解する |
| 職場環境等の評価及び改善の方法 | ストレス要因の把握と改善方法を学ぶ |
| 労働者からの相談対応 | 傾聴スキル、声かけの方法を習得する |
| 心の健康問題により休業した者の職場復帰への支援 | 復職支援の流れと配慮点を理解する |
活用できる研修リソース
厚生労働省「こころの耳」では、無料で利用できる研修コンテンツが提供されています。
- eラーニング「15分でわかるラインによるケア」: 約15分で6つのモジュールを学習
- 「こころの耳5分研修シリーズ」: 短時間で学べる動画コンテンツ
- 「部下の話を聴けていますか-傾聴のすすめ-」: 傾聴スキルを学ぶ教材
職場復帰支援における管理監督者の役割
職場復帰支援の流れ
メンタルヘルス不調により休業した労働者が職場復帰する際、管理監督者は重要な役割を担います。
| 段階 | 管理監督者の役割 |
|---|---|
| 休業中 | 定期的な連絡(本人の希望に応じて)、情報の取り扱いに配慮 |
| 復帰前 | 受け入れ体制の整備、職場への説明(本人同意の範囲で) |
| 復帰後 | 業務負荷の調整、定期的な面談、経過観察 |
復職者への配慮
復職者への配慮のポイント:
- 最初は業務量を軽減し、段階的に増やしていく
- 定期的に面談の機会を設け、状況を確認する
- 「いつでも相談していい」というメッセージを伝える
- 周囲の従業員にも過度な負担がかからないよう配慮する
出典・脚注
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ミニ用語集
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| ラインによるケア | 管理監督者が職場環境改善と部下の相談対応を行うメンタルヘルスケア |
| 管理監督者 | 部下を持ち、業務上の指揮命令権を持つ立場の者(部長・課長・係長等) |
| 4つのケア | セルフケア、ラインケア、事業場内スタッフによるケア、事業場外資源によるケア |
| 安全配慮義務 | 事業者が従業員の安全と健康を確保するために負う義務(労働契約法第5条) |
| 傾聴 | 相手の話に耳を傾け、共感的に理解しようとする聴き方 |
| 集団分析 | ストレスチェック結果を部署等の集団単位で分析すること |
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Footnotes
参考文献・出典
よくある質問
A. ラインケア単独を義務付ける法律はありませんが、労働契約法第5条の「安全配慮義務」に基づき、企業には従業員の心身の健康に配慮する義務があります。管理監督者は法人に代わってこの義務を負う立場となり得るため、ラインケアは実質的に管理職の重要な責務といえます。
A. まずは声をかけて話を聴くことが大切です。「最近どう?」「何か困っていることはない?」と声をかけ、部下の話に耳を傾けてください。病気の診断は管理監督者の役割ではないため、必要に応じて産業医や保健師への相談を促しましょう。
A. 遅刻・早退・欠勤の増加、ミスの増加、表情に活気がない、服装の乱れ、職場での会話の減少などが挙げられます。日頃から部下の「いつも」を把握しておくことで、変化に気付きやすくなります。
A. 厚生労働省「こころの耳」のサイトで、無料のeラーニング「15分でわかるラインによるケア」が提供されています。また、各都道府県の産業保健総合支援センターでも無料の研修が実施されています。
A. いいえ。病気の診断は医師の役割であり、管理監督者が行うべきではありません。「いつもと違う」変化に気付いたら、産業医や保健師への相談を促すか、管理監督者自身が産業医に対応方法を相談することが適切です。
A. 2025年5月に労働安全衛生法が改正され、50人未満の事業場でもストレスチェックが義務化されることが決定しました。施行は2028年を予定しています。中小企業でもラインケアの体制整備が求められるため、今から準備を進めることをお勧めします。