産業医とストレスチェック|役割・選任義務・面接指導の実務を解説
産業医はストレスチェック制度において実施者・面接指導医として中核的役割を担う。50人以上の事業場では選任義務があり、衛生委員会での審議、高ストレス者面接指導、集団分析に基づく職場環境改善を行う。50人未満では地域産業保健センターを無料活用可能。

結論(2行で分かる) 産業医は、ストレスチェックの「実施者」および面接指導の「実施医師」として、制度運用の中核を担う。50人以上の事業場では産業医の選任が義務であり、ストレスチェックと産業医は密接に連携する必要がある。
この記事の対象読者
- 産業医とストレスチェックの関係を整理したい人事・総務担当者
- ストレスチェック制度における産業医の役割を把握したい方
- 産業医がいない事業場での対応を検討している担当者
ポイント(5つ)
- 50人以上の事業場は産業医の選任義務がある
- 産業医はストレスチェックの実施者として最適
- 高ストレス者への面接指導は産業医が行うのが望ましい
- 産業医は集団分析結果に基づく職場環境改善を助言する
- 50人未満の事業場は地域産業保健センターを活用できる
よくある誤解3つ
- 誤解1: 産業医だけがストレスチェックを実施できる → 実際は保健師等も実施者になれる
- 誤解2: 産業医がいれば面接指導は万全 → 産業医以外の医師でも面接指導は可能
- 誤解3: 50人未満は産業医なしで何もできない → 地域産業保健センターで無料支援あり
根拠: 労働安全衛生法第13条、労働安全衛生規則第14条・第15条、労働安全衛生法第66条の10
産業医の数字 早見表
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 選任義務 | 常時50人以上の労働者を使用する事業場 |
| 専属産業医 | 常時1,000人以上、または有害業務に500人以上 |
| 職務頻度 | 毎月1回以上の職場巡視(条件付きで2か月に1回も可) |
| 報告義務 | 産業医選任時に労基署へ届出 |
| 衛生委員会 | 産業医は衛生委員会の構成員 |
| 情報提供 | 事業者は産業医に必要な情報を提供する義務 |
産業医とは何か?
産業医の定義
産業医とは、事業場において労働者の健康管理等を行う医師のこと。労働安全衛生法第13条に基づき、一定規模以上の事業場に選任が義務付けられている。
産業医は、労働者の健康を確保するため、事業者に対して必要な勧告を行う権限を持つ。単なる健康診断の実施者ではなく、職場環境と労働者の健康の両面から助言・指導を行う専門家である。
産業医の資格要件
産業医になるためには、以下のいずれかの要件を満たす必要がある(労働安全衛生規則第14条第2項)。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 日本医師会認定産業医 | 日本医師会の産業医学研修を修了 |
| 産業医科大学修了者 | 産業医科大学の産業医学課程を修了 |
| 労働衛生コンサルタント | 医師で労働衛生コンサルタント試験に合格 |
| 大学教員 | 産業医学に関する科目の教授・准教授・講師 |
| 厚生労働大臣指定講習修了者 | 指定された講習会を修了 |
産業医の選任義務
選任が必要な事業場
| 労働者数 | 産業医選任 | 専属/嘱託 |
|---|---|---|
| 50人未満 | 義務なし | - |
| 50人以上〜999人 | 義務あり | 嘱託でも可 |
| 1,000人以上 | 義務あり | 専属が必要 |
| 有害業務に500人以上 | 義務あり | 専属が必要 |
| 3,001人以上 | 義務あり | 専属2人以上必要 |
専属産業医とは、その事業場のみに勤務する産業医のこと。嘱託産業医は、複数の事業場を兼務することができる。
選任届の提出
産業医を選任した場合、事業者は14日以内に所轄労働基準監督署に届け出なければならない(労働安全衛生規則第13条第2項)。
産業医の職務(労働安全衛生規則第14条)
法定の職務内容
労働安全衛生規則第14条第1項では、産業医の職務として以下を定めている。
| 職務 | 具体的内容 |
|---|---|
| 健康診断の実施・結果に基づく措置 | 健康診断結果の確認、就業判定、事後措置の意見 |
| 長時間労働者への面接指導 | 月80時間超の時間外労働者への面接指導 |
| ストレスチェックへの関与 | 実施者としての関与、面接指導の実施 |
| 作業環境の維持管理 | 作業環境測定結果の評価、改善措置の助言 |
| 作業管理 | 作業方法の改善に関する助言 |
| 健康教育・健康相談 | 労働者への健康教育、相談対応 |
| 衛生教育 | 衛生に関する教育の企画・実施 |
| 健康障害の原因調査・再発防止 | 健康障害発生時の原因調査と対策 |
職場巡視の義務
産業医は、少なくとも毎月1回、作業場等を巡視し、作業方法または衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない(労働安全衛生規則第15条)。
巡視頻度の緩和措置: 事業者から毎月1回以上、所定の情報提供を受けている場合に限り、職場巡視を2か月に1回とすることができる(平成29年改正)。
ストレスチェックにおける産業医の役割
実施者としての産業医
ストレスチェックの実施者とは、ストレスチェックを企画し、結果の評価を行う者のこと。産業医は医師として研修なしで実施者になることができる。
産業医が実施者を務めるメリット:
| メリット | 内容 |
|---|---|
| 職場環境の熟知 | 日頃から事業場を巡視し、労働環境を把握している |
| 労働者の健康状態の把握 | 健康診断結果等から全体像を理解している |
| 面接指導への連携 | 高ストレス者への面接指導にスムーズにつなげられる |
| 職場改善への提言 | 集団分析結果を踏まえた具体的改善策を提案できる |
厚生労働省は「事業場の状況を日頃からよく知っている産業医等をストレスチェック実施者にすることが望ましい」としている。
衛生委員会での役割
産業医は衛生委員会の構成員として、ストレスチェック制度の運用方針について審議・調査に参加する。
衛生委員会で調査審議すべき事項:
- ストレスチェックの実施時期
- 使用する調査票(57項目、80項目等)
- 高ストレス者の選定基準
- 面接指導の申出方法
- 集団分析の方法と活用方法
- 結果の保存方法
- 個人情報の取り扱い
集団分析への関与
産業医は、集団分析の結果を読み解き、職場環境改善につなげる役割を担う。
| 関与内容 | 具体的活動 |
|---|---|
| 結果の解釈 | 仕事のストレス判定図の読み解き |
| リスク評価 | 部署ごとのストレス要因の特定 |
| 改善提言 | 衛生委員会への改善策の提案 |
| 効果検証 | 前年との比較、改善効果の評価 |
面接指導での産業医の役割
面接指導実施者としての産業医
高ストレス者から面接指導の申出があった場合、事業者は医師による面接指導を実施する義務がある(労働安全衛生法第66条の10第3項)。この面接指導を行う医師として、産業医が最も望ましいとされている。
産業医が面接指導を行うメリット:
| メリット | 内容 |
|---|---|
| 職場状況の理解 | 当該労働者の職場環境を把握済み |
| 継続的フォロー | 日常の産業保健活動と連携可能 |
| 就業措置の検討 | 職場の実情を踏まえた措置を提案できる |
| 信頼関係 | 既に労働者との関係が構築されている場合がある |
面接指導の実施内容
産業医が行う面接指導では、以下の事項を確認する。
| 確認事項 | 具体的内容 |
|---|---|
| 勤務状況 | 労働時間、業務内容、休日取得状況 |
| 心理的負担 | ストレスの原因、対処状況 |
| 心身の状況 | 自覚症状、既往歴、生活習慣 |
| その他 | 支援体制、周囲のサポート状況 |
意見書の作成
面接指導後、産業医は事業者に対して就業上の措置に関する意見を述べる。
意見の内容:
| 就業区分 | 措置内容 |
|---|---|
| 通常勤務 | 特段の措置は不要 |
| 就業制限 | 労働時間短縮、時間外労働制限、作業転換、配置転換等 |
| 要休業 | 療養のための休業が必要 |
産業医の意見は勧告的なものであり、最終的な措置の決定は事業者が行う。ただし、事業者は産業医の意見を尊重する義務がある。
産業医がいない事業場の対応(50人未満)
50人未満事業場の現状
常時50人未満の労働者を使用する事業場では、産業医の選任義務がない。しかし、ストレスチェックの実施や面接指導には医師等の関与が必要である。
義務化の拡大: 2025年5月に公布された改正労働安全衛生法により、50人未満の事業場にもストレスチェックの実施義務が拡大される(施行は公布後3年以内、2028年5月まで)。
地域産業保健センターの活用
地域産業保健センター(地さんぽ)は、50人未満の事業場向けに無料で産業保健サービスを提供する機関である。
提供されるサービス:
| サービス | 内容 | 費用 |
|---|---|---|
| 健康相談 | 健康診断結果に基づく相談 | 無料 |
| 面接指導 | 高ストレス者等への医師面接指導 | 無料 |
| 個別訪問支援 | 事業場への訪問による助言 | 無料 |
| 産業保健指導 | 作業環境管理、作業管理の助言 | 無料 |
地域産業保健センターは全国350か所以上に設置されている。最寄りのセンターは厚生労働省のWebサイトまたは各都道府県の産業保健総合支援センターで確認できる。
その他の対応方法
| 方法 | 特徴 | 費用 |
|---|---|---|
| 任意で産業医を選任 | 嘱託産業医との契約 | 月額3万円〜10万円程度 |
| ストレスチェック外部委託 | 実施者込みのサービス利用 | 回答単価で設定 |
| 健診機関との連携 | 健診機関の医師を活用 | 契約内容による |
産業医との連携ポイント
ストレスチェック前の連携
| 時期 | 連携内容 |
|---|---|
| 年度初め | 実施計画の策定、実施者の確認 |
| 実施1か月前 | 衛生委員会での審議、従業員への周知方法の確認 |
| 実施直前 | 調査票の最終確認、実施体制の確認 |
ストレスチェック中の連携
| 事項 | 連携内容 |
|---|---|
| 受検勧奨 | 未受検者への対応方針の確認 |
| 問い合わせ対応 | 質問への回答、不安解消 |
| 進捗管理 | 受検率の確認、対策検討 |
ストレスチェック後の連携
| 事項 | 連携内容 |
|---|---|
| 結果報告 | 全体傾向、高ストレス者の状況報告 |
| 面接指導調整 | 面接指導希望者への日程調整 |
| 集団分析 | 結果の解釈、改善策の検討 |
| 労基署報告 | 報告書作成の確認 |
年間を通じた連携
| 頻度 | 連携内容 |
|---|---|
| 毎月 | 衛生委員会での報告・審議 |
| 毎月 | 職場巡視時の情報共有 |
| 随時 | 面接指導後のフォローアップ |
| 年1回 | 年間活動報告、次年度計画策定 |
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ミニ用語集
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 産業医 | 事業場において労働者の健康管理等を行う医師 |
| 専属産業医 | 1つの事業場のみに勤務する産業医 |
| 嘱託産業医 | 複数の事業場を兼務する産業医 |
| 実施者 | ストレスチェックを企画し、結果の評価を行う有資格者 |
| 地域産業保健センター | 50人未満の事業場向けに無料で産業保健サービスを提供する機関 |
| 衛生委員会 | 労働者の健康障害防止等を審議する委員会(50人以上の事業場で設置義務) |
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- 経年変化の可視化
セキュリティ
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参考文献・出典
よくある質問
A. 選任義務はありませんが、労働者の健康管理のために産業医等を活用することが努力義務として求められています。ストレスチェックの面接指導には医師が必要ですが、地域産業保健センターを無料で利用できます。
A. 職場環境を熟知しており、労働者の健康状態を把握しているため、適切な高ストレス者判定ができます。また、面接指導への連携がスムーズで、集団分析結果に基づく職場環境改善の提言も行えます。
A. はい、医師であれば産業医でなくても面接指導を実施できます。ただし、職場の状況を理解している産業医が行うのが最も望ましいとされています。