EAP導入の進め方|選定基準・社内展開・効果測定の実務ガイド
EAP(従業員支援プログラム)の導入プロセスを4ステップで解説。EAP事業者の選定基準、心の健康づくり計画への位置づけ、社内展開・周知の方法、効果測定のKPI設定まで。ストレスチェックとの連携方法や50人未満事業場の活用方法も紹介。

結論(2行で分かる) EAP(従業員支援プログラム)の導入は、ニーズ分析・事業者選定・社内展開・効果測定の4段階で進めます。厚生労働省指針の「心の健康づくり計画」に事業場外資源の活用として位置づけ、衛生委員会で審議した上で導入することが重要です。
この記事の対象読者
- EAPの導入を検討している人事・総務担当者
- 心の健康づくり計画にEAPを組み込みたい衛生管理者
- メンタルヘルス対策の強化を検討している経営者
ポイント(EAP導入の4つのステップ)
- 自社のニーズ分析: 現状の課題と導入目的を明確化する
- EAP事業者の選定: 専門職の体制・対応範囲・個人情報保護体制を評価する
- 社内展開・周知: 繰り返しの案内と匿名性の強調で利用率を高める
- 効果測定・見直し: 利用率・相談内容の傾向・休職率の推移をモニタリングする
よくある誤解3つ
- 誤解1: EAPを導入すれば自動的に利用される → 周知活動を継続しなければ利用率は上がらない
- 誤解2: EAPは大企業向けのサービス → 中小企業向けのプランや従量課金型のサービスもある
- 誤解3: EAPを導入すれば社内の相談体制は不要 → EAPは4つのケアの一つであり、他のケアと併用して初めて効果を発揮する
根拠: 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平成18年3月策定、平成27年11月改正)
EAP導入 早見表
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 定義 | 従業員支援プログラム(Employee Assistance Program)。事業場外資源によるケアの一つの手段1 |
| 位置づけ | 厚労省指針「4つのケア」のうち、事業場外資源によるケアに該当 |
| 法的根拠 | 心の健康づくり計画に「事業場外資源の活用」を含めることとされている2 |
| 主なサービス | カウンセリング、メンタルヘルス研修、復職支援、組織コンサルテーション |
| 費用相場 | 1人あたり月額200〜1,000円程度(プランにより異なる) |
| 導入ステップ | ニーズ分析 → 事業者選定 → 社内展開 → 効果測定 |
| メンタルヘルス対策実施率 | 63.2%(令和6年労働安全衛生調査)3 |
| 相談体制の整備率 | 46.1%(メンタルヘルス対策実施事業所のうち)3 |
| 専門家への相談率 | 5.3%以下(労働者全体)3 |
| メンタルヘルス不調による休業・退職 | 事業所の12.8%で発生3 |
なぜEAP導入が必要なのか?
統計データが示す課題
令和6年労働安全衛生調査によると、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所は63.2%ですが、相談体制の整備に取り組んでいる事業所は46.1%にとどまっています3。
さらに、強いストレスを感じている労働者は68.3%に上る一方、産業医等の専門家に相談した割合は5.3%以下です3。相談先は「家族・友人」(68.6%)や「上司」(65.7%)が中心であり、専門的な支援につながっていない現状があります。
EAP導入で解決できる課題:
| 課題 | EAPによる対応 |
|---|---|
| 専門家への相談率が低い | 社外の専門家に匿名で相談できる環境を整備 |
| 社内では相談しにくい | 事業場から独立した外部機関に相談可能 |
| メンタルヘルス不調の早期発見が困難 | カウンセリングを通じた早期介入 |
| 休職者への対応ノウハウ不足 | 復職支援プログラムの提供 |
4つのケアにおけるEAPの位置づけ
厚生労働省指針では、メンタルヘルスケアを「4つのケア」で推進することが示されています。EAPは「事業場外資源によるケア」の一つの手段として位置づけられています1。
| ケア | 主体 | EAPとの関係 |
|---|---|---|
| セルフケア | 労働者自身 | EAPがセルフケアの方法を助言 |
| ラインによるケア | 管理監督者 | 管理職がEAPの存在を部下に案内 |
| 事業場内産業保健スタッフ等によるケア | 産業医・保健師等 | EAP事業者と産業医が連携 |
| 事業場外資源によるケア | EAP事業者等 | カウンセリング・復職支援を提供 |
EAPは4つのケアのうちの1つを担うものであり、EAP単体で全てのメンタルヘルスケアが完結するわけではありません。セルフケア研修やラインケア研修と組み合わせて活用することで、効果が最大化されます。
EAP導入はどう進める?4つのステップ
ステップ1: 自社のニーズ分析
EAP導入の前に、自社のメンタルヘルスに関する現状と課題を整理します。
| 確認項目 | 確認方法 |
|---|---|
| メンタルヘルス不調による休業・退職の状況 | 人事データの確認 |
| ストレスチェックの集団分析結果 | 部署別のストレス状況の確認 |
| 既存の相談体制の利用状況 | 社内相談窓口の利用件数 |
| 従業員のニーズ | 衛生委員会やアンケートでの意見聴取 |
| 管理職のメンタルヘルス対応スキル | ラインケア研修の実施状況 |
ニーズ分析の結果、以下に該当する場合はEAP導入の検討が推奨されます。
- 社内に相談窓口はあるが利用率が低い
- メンタルヘルス不調による休業者が発生している
- ストレスチェックの集団分析で高ストレス部署がある
- 管理監督者がメンタルヘルス対応に困っている
- 復職支援のノウハウが社内にない
ステップ2: EAP事業者の選定
EAP事業者を選定する際は、以下の評価項目を確認してください。
| 評価項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 専門職の体制 | 臨床心理士・公認心理師・精神保健福祉士等の資格保有者の人数と経験 |
| 対応チャネル | 電話・メール・Web・対面の対応可否 |
| 対応時間帯 | 24時間対応か、営業時間内のみか |
| 対応言語 | 日本語以外の対応言語(外国籍従業員がいる場合) |
| カウンセリング回数 | 基本料金に含まれるカウンセリング回数 |
| 復職支援プログラム | 休職者の復職支援サービスの有無 |
| 管理職向け研修 | ラインケア研修の提供有無 |
| レポーティング | 利用状況の定期レポート(個人が特定されない集計レポート) |
| 個人情報保護 | Pマーク・ISMS等の認証取得状況 |
| 契約形態 | 定額制か従量課金制か、最低利用期間 |
EAP事業者の選定時に最も重視すべきは「個人情報保護体制」です。従業員が安心して相談できるよう、相談内容が事業者に漏れない仕組みが確保されていることを必ず確認してください。利用状況レポートも、個人が特定できない集計データのみとすることが原則です。
ステップ3: 社内展開・周知
EAPの導入効果は、社内展開・周知の質に大きく依存します。
周知の基本原則:
| 原則 | 具体的な方法 |
|---|---|
| 繰り返し案内する | 導入時の案内だけでなく、定期的にリマインドする(四半期ごと等) |
| 匿名性を強調する | 相談内容が会社に知られないことを明確に伝える |
| 複数のチャネルで案内する | メール、社内報、ポスター、研修、ストレスチェック結果通知時 |
| 管理職から推奨する | 管理職研修でEAPの存在と部下への勧め方を教育する |
| 利用のハードルを下げる | 「メンタルヘルスに問題がなくても気軽に相談できる」と伝える |
効果的な周知タイミング:
| タイミング | 方法 |
|---|---|
| 導入時 | 全従業員向け説明会、メール、社内ポータル掲載 |
| ストレスチェック実施時 | 結果通知と同時にEAPの案内を送付 |
| 新入社員研修 | 入社時オリエンテーションで案内 |
| 管理職研修 | ラインケア研修の中でEAPの案内方法を教育 |
| 定期的なリマインド | 四半期ごとのメール配信、社内報への掲載 |
ステップ4: 効果測定・見直し
EAP導入後は、定期的に効果を測定し、サービス内容や周知方法の見直しを行います。
| 測定指標 | 測定方法 | 目安 |
|---|---|---|
| 利用率 | EAP事業者からの定期レポート | 導入初年度は低くても、周知活動の継続で向上を目指す |
| 相談内容の傾向 | EAP事業者からの集計レポート(個人特定不可) | 職場課題の把握に活用 |
| ストレスチェック結果の推移 | 集団分析の経年比較 | 高ストレス者率の変化 |
| メンタルヘルス不調による休業率 | 人事データ | 休業者数の推移 |
| 従業員満足度 | 従業員アンケート | メンタルヘルス対策への満足度 |
EAPの利用率だけを指標にしないことが重要です。利用率が低い場合でも、「相談できる場所がある」という安心感が従業員のストレス軽減に寄与している可能性があります。ストレスチェックの集団分析結果や休業率の推移など、複数の指標を組み合わせて評価してください。
心の健康づくり計画にEAPをどう位置づける?
指針が求める計画の内容
厚生労働省指針では、心の健康づくり計画に「メンタルヘルスケアを行うために必要な人材の確保及び事業場外資源の活用に関すること」を含めることとされています2。EAPの導入は、この項目に直接該当します。
計画への記載例
心の健康づくり計画にEAPを位置づける際は、以下の事項を記載してください。
| 記載事項 | 記載内容の例 |
|---|---|
| 導入目的 | 事業場外の専門家による相談体制を整備し、従業員のメンタルヘルス不調の未然防止を図る |
| 活用するEAPサービス | 契約するEAP事業者名、提供サービスの範囲 |
| 利用方法 | 電話・メール・Web・対面の各チャネルの利用方法 |
| 周知方法 | 従業員への案内方法、周知頻度 |
| 個人情報の取扱い | 相談内容の秘密保持、利用状況レポートの範囲 |
| 効果評価 | 測定指標、評価頻度、見直しの方法 |
衛生委員会での審議
EAPの導入にあたっては、衛生委員会(または安全衛生委員会)で以下の事項を審議してください。
- EAP導入の目的と期待される効果
- 選定するEAP事業者とサービス内容
- 個人情報の取扱いルール
- 従業員への周知方法
- 効果測定の方法と見直しの頻度
EAP事業者に求められる専門職の体制は?
EAPで活動する主な専門職
EAPサービス機関では、以下の専門職がカウンセラーとして活動しています1。
| 資格 | 主な役割 |
|---|---|
| 臨床心理士 | 心理アセスメント、カウンセリング |
| 公認心理師 | 心理的支援、心理教育 |
| 精神保健福祉士 | 社会資源の活用支援、復職支援 |
| 産業カウンセラー | 職場のメンタルヘルス相談 |
選定時の確認ポイント
- 常勤の有資格者が何名在籍しているか
- 産業領域でのカウンセリング経験があるか
- 緊急対応(自殺リスク等)の体制があるか
- 精神科医によるスーパーバイズ体制があるか
50人未満事業場でもEAPは導入できる?
50人未満の事業場でもEAPの導入は可能です。ただし、費用対効果を考慮し、以下の選択肢と比較した上で判断してください。
| 選択肢 | 費用 | 特徴 |
|---|---|---|
| EAP(従量課金型) | 有料(利用時のみ課金) | 少人数でも導入しやすい |
| 地域産業保健センター(地さんぽ) | 無料 | 50人未満事業場が利用可能。面接指導・健康相談 |
| こころの耳相談窓口 | 無料 | 匿名・無料の電話・SNS・メール相談 |
| 産業保健総合支援センター(さんぽセンター) | 無料 | 相談・研修・情報提供 |
50人未満の事業場で予算が限られている場合は、まず無料の公的機関(地さんぽ、さんぽセンター)を活用し、従業員規模が拡大した段階でEAPの導入を検討するのも一つの方法です。詳しくは「EAPとは?メンタルヘルス外部相談窓口の種類と活用方法」をご覧ください。
ストレスチェックとEAPの連携は?
ストレスチェックとEAPを連携させることで、メンタルヘルス対策の効果を高めることができます。
| 連携のポイント | 内容 |
|---|---|
| 結果通知時のEAP案内 | ストレスチェック結果の通知と同時にEAPの案内を送付 |
| 高ストレス者への勧奨 | 面接指導の申出とあわせて、EAPの利用も案内 |
| 集団分析結果の活用 | 高ストレス部署へのEAP研修の実施 |
| 面接指導後のフォロー | 産業医面談後の継続的なフォローとしてEAPカウンセリングを案内 |
ストレスチェックの個人結果をEAP事業者に直接提供することはできません。個人結果の取扱いは実施者の管理下にあり、本人の同意なく第三者に提供することは禁止されています。連携はあくまで「案内」レベルで行い、相談するかどうかは従業員本人の判断に委ねてください。
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ミニ用語集
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| EAP | Employee Assistance Program(従業員支援プログラム)。事業場外資源によるケアの一つの手段 |
| 心の健康づくり計画 | メンタルヘルスケアを推進するために事業者が策定する計画。厚労省指針で策定が求められている |
| 4つのケア | セルフケア、ラインケア、事業場内スタッフによるケア、事業場外資源によるケア |
| 事業場外資源 | 外部の専門機関・専門家(EAP、産業保健総合支援センター、医療機関等) |
| 衛生委員会 | 労働者50人以上の事業場に設置が義務づけられた委員会。メンタルヘルス対策を審議 |
| 登録相談機関 | 事業者と契約を結び、有料で面接による心の健康相談を行う専門機関 |
MentalMapでストレスチェックとEAPの連携を支援
MentalMapは、ストレスチェックの実施からEAP等の外部相談窓口への連携までを支援するクラウド型ストレスチェックサービスです。
外部相談窓口との連携
- ストレスチェック結果画面から相談窓口情報を表示
- 高ストレス者への面接指導案内と外部相談窓口案内を自動送信
- 従業員が外部相談窓口に相談しやすい導線を設計
集団分析でEAP活用を最適化
- 部署別・属性別の集団分析で高ストレス部署を特定
- EAP研修やカウンセリングの優先対象を把握
- 経年比較でEAP導入後の効果を可視化
プライバシー保護
- 個人のストレスチェック結果は本人のみ閲覧可能
- 実施者・産業医・実施事務従事者・人事担当者の権限を分離
- 全操作履歴の監査ログを記録(改ざん防止機能付き)
多言語対応
- 12カ国語対応で外国人従業員も受検可能(追加料金なし)
Footnotes
参考文献・出典
よくある質問
A. EAPの費用は契約内容や従業員規模により異なりますが、一般的な相場は1人あたり月額200〜1,000円程度です。 **費用の目安(1人あたり月額)**: - 基本プラン(電話・メール相談中心): 200〜500円 - 標準プラン(対面カウンセリング・管理職研修含む): 500〜1,000円 - 包括プラン(組織コンサルテーション・24時間対応): 1,000円以上 費用対効果の判断にあたっては、メンタルヘルス不調による休業・退職のコスト(代替要員確保、業務引き継ぎ、生産性低下等)と比較して検討してください。令和6年労働安全衛生調査によると、メンタルヘルス不調による休業・退職者がいた事業所は12.8%に上ります。
A. EAPの利用率向上には、以下の5つの施策が効果的です。 1. **繰り返しの周知**: 導入時の案内だけでなく、四半期ごとなど定期的にリマインドする 2. **匿名性の強調**: 相談内容が会社に知られないことを繰り返し明確に伝える 3. **管理職からの推奨**: 管理職研修でEAPの案内方法を教育し、部下への声かけを促す 4. **ストレスチェックとの連携**: ストレスチェック結果通知時にEAPの案内を同封する 5. **利用のハードルを下げる**: 「メンタルヘルスに問題がなくても気軽に相談できる」と伝え、キャリア相談や家庭の悩みなども相談対象であることを案内する 周知活動は一度で終わらせず、継続的に行うことが重要です。
A. 最も重要な基準は「個人情報保護体制」と「専門職の質」の2点です。 **個人情報保護体制**: - Pマーク・ISMS等の認証取得状況 - 相談内容が事業者(契約企業)に漏れない仕組みの確保 - 利用状況レポートが個人特定できない集計データであること **専門職の質**: - 臨床心理士・公認心理師・精神保健福祉士等の有資格者の在籍人数 - 産業領域でのカウンセリング経験の有無 - 緊急対応(自殺リスク等)の体制の整備状況 その上で、対応チャネル(電話・メール・Web・対面)、対応時間帯、レポーティング体制、復職支援プログラムの有無などを総合的に評価してください。
A. EAPの導入効果は、以下の指標を組み合わせて測定します。 **直接的な指標**: - EAP利用率(EAP事業者からの定期レポート) - 相談内容の傾向(個人が特定されない集計データ) **間接的な指標**: - ストレスチェック集団分析結果の経年変化(高ストレス者率の推移) - メンタルヘルス不調による休業率の推移 - 従業員満足度調査の結果 注意点として、EAPの利用率だけを成果指標にしないことが重要です。「相談できる場所がある」という安心感自体が従業員のストレス軽減に寄与している可能性があるため、複数の指標を組み合わせて評価してください。
A. 50人未満の事業場でもEAPの導入は可能です。従量課金型のプランであれば、少人数でも費用を抑えて導入できます。 ただし、予算が限られている場合は、まず無料の公的機関を活用する方法もあります。 - **地域産業保健センター(地さんぽ)**: 50人未満の事業場向けに、医師による面接指導相談等を無料で提供 - **産業保健総合支援センター(さんぽセンター)**: 全事業場向けに、メンタルヘルスに関する相談・研修を無料で提供 - **こころの耳相談窓口**: 労働者が匿名・無料で利用できる電話・SNS・メール相談 従業員規模の拡大に伴い、公的機関の支援では対応しきれなくなった段階でEAPの導入を検討するのも効果的な進め方です。