本文へスキップ
制度・法令|

安全配慮義務とメンタルヘルス|企業が果たすべき法的責任を解説

安全配慮義務にはメンタルヘルスへの配慮が含まれます。労働契約法第5条の解説から、電通事件・東芝事件などの重要判例、義務違反のリスク、具体的な対策まで、企業の法的責任をわかりやすく解説します。

安全配慮義務とメンタルヘルス|企業が果たすべき法的責任を解説

この記事のまとめ

結論(2行で分かる)​ 安全配慮義務には従業員の心身の健康への配慮が含まれる​。メンタルヘルス対策を怠ると損害賠償責任(数千万〜1億円超)​を負う可能性あり。

対象読者: 人事労務担当者、経営者、衛生管理者、産業保健スタッフ

安全配慮義務を果たすための4つのポイント

  1. 労働時間の適正管理(長時間労働の防止)
  2. 職場環境の改善(ハラスメント対策、業務量調整)
  3. メンタルヘルスケア体制の整備(4つのケア)
  4. ストレスチェック制度の活用(一次予防)

よくある誤解3つ

  • 誤解1: 安全配慮義務は身体的安全のみ → 実際は心身の健康を含む
  • 誤解2: 従業員が申告しなければ責任なし → 実際は申告がなくても健康への配慮が必要
  • 誤解3: 中小企業には関係ない → 実際は企業規模を問わず義務を負う

根拠: 労働契約法第5条、電通事件(最高裁平成12年3月24日判決)、東芝事件(最高裁平成26年3月24日判決)


安全配慮義務とは何か?

労働契約法第5条の定め

安全配慮義務とは、使用者(企業)が労働者の安全と健康を確保するために負う義務です。​労働契約法第5条に以下のとおり明文化されています。

労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)​

「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」

出典: e-Gov法令検索「労働契約法」

「身体等の安全」にはメンタルヘルスも含まれる

条文に定める「生命、身体等の安全」には、​心身の健康も含まれます​。厚生労働省の通達においても、心の健康(メンタルヘルス)への配慮が安全配慮義務に含まれることが明確にされています。

対象具体例
身体的健康労働災害の防止、有害物質への曝露防止、過重労働の防止
精神的健康うつ病等の予防、パワーハラスメント対策、過度なストレスの軽減

安全配慮義務の法的根拠

安全配慮義務は、もともと判例法理として確立されていましたが、平成20年(2008年)3月1日施行の労働契約法で明文化されました。

法令内容
労働契約法第5条安全配慮義務の明文化
民法第415条債務不履行責任(安全配慮義務違反の根拠)
民法第709条・第715条不法行為責任・使用者責任
労働安全衛生法具体的な安全衛生措置の義務

メンタルヘルスにおける安全配慮義務とは?

具体的に何が求められるか

使用者は、従業員のメンタルヘルス不調を予防し、また不調の兆候がある場合には適切に対応する義務を負います。

メンタルヘルスにおける安全配慮義務の内容

義務の内容具体的な措置
労働時間の管理長時間労働の防止、残業時間の把握、36協定の遵守
業務量の調整過度な業務負荷の軽減、適切な人員配置
職場環境の整備ハラスメント対策、人間関係の改善支援
健康管理体制産業医・保健師の配置、相談窓口の設置
情報提供・教育メンタルヘルスに関する研修、セルフケア教育
ストレスチェック年1回の実施(50人以上の事業場は義務)
面接指導高ストレス者への医師面談の提供

「申告がなくても」配慮が必要

最高裁判例(東芝事件)では、労働者が自らの健康状態を申告しなかった場合でも、使用者には安全配慮義務があることが示されました。

東芝事件の判示(最高裁平成26年3月24日第二小法廷判決)​

「使用者は、必ずしも労働者からの申告がなくても、その健康に関わる労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負っている」

「労働者にとって過重な業務が続く中でその体調の悪化が看取される場合には、上記のような情報については労働者本人からの積極的な申告が期待し難いことを前提とした上で、必要に応じてその業務を軽減するなど労働者の心身の健康への配慮に努める必要があるものというべきである」

出典: 最高裁平成26年3月24日第二小法廷判決


安全配慮義務違反の判例|電通事件・東芝事件

電通事件(最高裁平成12年3月24日判決)

過労自殺に関する安全配慮義務違反を認めた最も重要な判例です。

項目内容
概要入社2年目の男性社員(当時24歳)が過労によるうつ病で自殺
労働実態恒常的に著しく長時間にわたる業務従事、深夜2時以降の帰宅・徹夜作業が頻繁
最高裁判断業務と自殺の因果関係を認定、会社の安全配慮義務違反を認定
和解金額約1億6,800万円

最高裁の重要な判示

「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、​業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」

出典: 最高裁平成12年3月24日第二小法廷判決

また、本人の性格が通常想定される範囲内であれば損害賠償額の減額事由にならないという重要な判断も示されました。この判決により「過労自殺」という概念が社会に広まり、企業のメンタルヘルス対策が厳しく問われるようになりました。

東芝事件(最高裁平成26年3月24日判決)

労働者が申告しなくても安全配慮義務があることを示した重要判例です。

項目内容
概要液晶開発技術者(女性)がプロジェクトの過重労働でうつ病を発症、休職後に解雇
争点従業員が病気を申告しなかったことで過失相殺できるか
最高裁判断申告がなくても安全配慮義務を負う、過失相殺を否定、原審を破棄差戻し
賠償金額約6,000万円​(差戻し審で確定)

判決の意義

  • メンタルヘルス情報はプライバシーに属し、申告しにくい性質がある
  • 体調悪化の兆候がある場合、会社は積極的に配慮する必要がある
  • 「本人が言わなかったから」という言い訳は通用しない

安全配慮義務違反で企業が負うリスク

損害賠償責任

安全配慮義務に違反した場合、​民法415条(債務不履行責任)​または民法709条・715条(不法行為責任・使用者責任)​に基づき、損害賠償責任を負う可能性があります。

リスク内容
損害賠償治療費、休業損害、逸失利益、慰謝料など(数千万〜1億円超)
レピュテーション企業イメージの低下、採用への影響
労働基準監督署の指導是正勧告、改善指導
労災認定労災保険給付後の求償リスク

過去の判例における損害賠償額

事件名賠償額
電通事件約1億6,800万円(和解)
東芝事件約6,000万円

労働契約法には罰則規定はありませんが、​民事上の損害賠償責任を免れることはできません。特にメンタルヘルス不調による自殺案件では、賠償額が高額になる傾向があります。


安全配慮義務を果たすための対策

1. 労働時間の適正管理

対策内容
労働時間の把握タイムカード、PCログ等による客観的な記録
長時間労働の防止残業時間の上限管理、ノー残業デーの設定
36協定の遵守法定の上限時間の遵守
医師による面接指導月80時間超の残業者への面接指導

2. 職場環境の改善

対策内容
ハラスメント対策相談窓口の設置、研修の実施、就業規則への明記
業務量の調整業務の棚卸し、人員配置の見直し
人間関係の改善1on1ミーティング、チームビルディング
物理的環境温度・照明・騒音等の適正化

3. メンタルヘルスケア体制の整備(4つのケア)

厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」に基づく4つのケアを推進します。

ケア内容
セルフケア従業員自身によるストレスへの気づきと対処
ラインケア管理監督者による部下のケア、職場環境改善
事業場内産業保健スタッフによるケア産業医・保健師等による専門的支援
事業場外資源によるケア外部EAP、医療機関等の活用

4. ストレスチェック制度の活用

ストレスチェック制度は、​一次予防(メンタルヘルス不調の未然防止)​を目的とした法定制度です。

実施事項内容
ストレスチェックの実施年1回、全従業員を対象に実施(50人以上は義務)
結果の通知本人に直接通知、セルフケアを促進
高ストレス者への面接指導医師による面談を提供
集団分析部署単位でのストレス状況を把握、職場環境改善に活用

ストレスチェック制度を適切に実施し、その結果に基づいて職場環境改善を行うことは、​安全配慮義務を果たしている証拠となります。


ストレスチェック制度と安全配慮義務の関係

ストレスチェックは一次予防の要

ストレスチェック制度は、労働安全衛生法第66条の10に基づき、従業員のメンタルヘルス不調を未然に防ぐための制度です。

ストレスチェック制度と安全配慮義務の関係

制度の機能安全配慮義務との関連
個人結果の通知従業員のセルフケアを支援(一次予防)
高ストレス者への面接指導不調の早期発見・対応(二次予防)
集団分析職場環境の問題を把握し改善(一次予防)
医師の意見に基づく措置就業上の配慮、業務量調整

50人未満の事業場も注意が必要

現在、ストレスチェック制度は常時50人以上の事業場に義務付けられていますが、​2028年頃には50人未満の事業場にも義務化される予定です(2025年5月公布の改正労働安全衛生法)。

ただし、ストレスチェックが義務でなくても、​安全配慮義務は企業規模を問わず適用されます​。50人未満の事業場でも、従業員のメンタルヘルスに配慮する義務を負っています。


ミニ用語集

用語意味
安全配慮義務使用者が労働者の生命・身体等の安全を確保するために負う義務(労働契約法第5条)
債務不履行責任契約上の義務を履行しなかった場合に負う損害賠償責任(民法第415条)
使用者責任使用者が被用者の行為について負う損害賠償責任(民法第715条)
過労自殺過重労働によるうつ病等が原因で自殺に至ること
4つのケア厚労省指針に基づくメンタルヘルス対策の枠組み(セルフケア・ラインケア等)
ストレスチェック労働者の心理的負担の程度を把握するための検査(労働安全衛生法第66条の10)

まとめ—安全配慮義務とメンタルヘルス対策のポイント

押さえるべきポイント

  1. 安全配慮義務には心身の健康への配慮が含まれる​(労働契約法第5条)
  2. 従業員が申告しなくても配慮義務を負う​(東芝事件判例)
  3. 義務違反には高額な損害賠償リスクがある​(数千万〜1億円超)
  4. ストレスチェック制度を活用して一次予防を強化する
  5. 4つのケア体制を整備し、組織的にメンタルヘルス対策を推進する

安全配慮義務は、単なるリスク管理ではなく、従業員の健康と生産性を守るための基盤です。適切な対策を講じることで、従業員の健康と企業の持続的な成長の両立が実現します。


関連記事


MentalMapは、ストレスチェックの実施から集団分析、面接指導の管理まで一貫してサポートします。​安全配慮義務を果たすための体制構築を、効率的かつ確実に実現できます。

よくある質問

A. はい、含まれます。労働契約法第5条の「生命、身体等の安全」には心身の健康が含まれます。うつ病等の精神疾患の予防・対応も使用者の義務です。

A. 事案により大きく異なりますが、過労自殺案件では1億円を超えるケースもあります。電通事件では約1億6,800万円、東芝事件では約6,000万円の賠償が認められています。

A. いいえ。東芝事件の最高裁判決では、労働者からの申告がなくても安全配慮義務を負うと判示されています。メンタルヘルス情報は申告しにくい性質があることを前提に、会社は積極的に配慮する必要があります。

A. はい。安全配慮義務は企業規模を問わず全ての使用者に適用されます。中小企業であっても義務違反があれば損害賠償責任を問われる可能性があります。

A. 労働時間の記録、ストレスチェックの実施記録、面接指導の実施・勧奨記録、メンタルヘルス研修の記録、衛生委員会の議事録、ハラスメント相談対応記録などを残しておくことが重要です。

A. 労働契約法第5条には罰則規定はありません。ただし、義務違反があった場合は民法に基づく損害賠償責任(債務不履行責任・不法行為責任)を負う可能性があります。

関連記事

ストレスチェックの導入をご検討中ですか?

MentalMapは、厚生労働省基準に完全準拠したストレスチェック管理システムです。 まずは無料でお試しください。